<フラックスの選定>
フラックスは化学材料であり、各はんだ材料メーカもあまり詳しく説明していないため、情報が不足していると思います。ユーザーではフラックス単体で評価することは、少なくはんだ付けを実施してみて評価することが多いと思います。ここでは、はんだ付け評価を行う際のフラックス技術に関連のある事柄に関して、評価上の注意事項をフラックスの挙動とともに述べることにします。


(1)フラックスの構成成分とその挙動    
 フラックスは一般的に以下の4種類の成分によって構成されています。

  ① ベース剤(ロジン)

  ② 活性剤(有機酸、ハロゲン化物)

  ③ 溶剤

  ④ チキソ剤(ペーストはんだに使用、糸はんだには使用されていません。)

このうち、活性剤は被はんだ付け表面の酸化物を除去する役割を持つもので、はんだの良好な濡れ性を確保するには、最も重要な成分になります。このような成分からなるフラックスをはんだ付け部に塗布し、温度を上げていくと、最初に溶剤が蒸発します。次にフラックス中の活性剤が被はんだ付け表面の酸化物と反応し、金属塩の形にして酸化物を除去します。残った活性剤ははんだ付け温度まで加熱されると、溶剤同様その大部分は蒸発、飛散してしまいます。従って、はんだ付け後、はんだ接合部に残留するフラックス残渣としては、ベース剤としてのロジンと活性剤と金属の酸化物との反応で生成した金属塩、残った活性剤さらにはペーストはんだではチキソ剤ということになります。このような残渣に水分が付着し、金属塩もしくは残った活性剤と接触したとすると、金属塩もしくは活性剤は水分と反応して電離し、イオンとなります。これに電圧を印加すると、イオンが移動し、電流が流れ、絶縁抵抗特性を示します。フラックス残渣の絶縁抵抗が低いということは、この電圧で移動するイオンの量が多いということを意味しています。一般的にベース剤として使用されているロジンは撥水性があり、ロジン中に金属塩と残った活性剤を分散させ水分と接触しないようにすれば、良好な絶縁抵抗を維持できます。このように、フラックス残渣の絶縁抵抗特性では、ロジンは非常に重要な役割を持っています。これがフラックスの挙動です。このフラックスの挙動から、はんだ付け評価試験での主な注意事項を述べると、次のようになります。

(2)濡れ性と絶縁抵抗は相反する。    

一般的にはんだの濡れ性を向上させるには、上述したフラックス中の活性剤をより強力なものにするか、量を増やす必要があります。このようなフラックスを使用するとはんだ付け後のフラックス残渣中の金属塩さらには残った活性剤の量も多くなり、水分と反応して電離するイオンの量も多くなります。イオンの量が多くなると、電圧を印加した場合、より多くの電流が流れ、絶縁抵抗値は低下します。このことから、一般的には、はんだの濡れ性と絶縁抵抗は相反します。しかし、もしこの場合、ロジンがしっかり金属塩もしくは残った活性剤を包み込んでいるとすると、水分との接触を防止することができ、絶縁抵抗の低下を抑えることができます。しかし、温度サイクル試験等でロジンにクラック等の物理的な欠陥が発生すると、このロジンによる包み込み効果が不十分になり、絶縁抵抗特性の低下は避けられません。このように、濡れ性と絶縁特性を両立させるには、このロジンの包み込み効果を十分、評価する必要があります。

(3)活性剤の量とはんだ接合部中のボイドの量は比例する。    

はんだ接合部中に見られるボイドは活性剤の分解ガスが閉じ込められたものです。    

(これ以外に濡れ不良で発生するボイドもあります。)従いまして、濡れ性を向上させるため、活性剤の量を増やすと必然的に分解ガスの量も増えることから、はんだ接合中に見られるボイドの量も増えることになります。このため、リフローはんだ付けでは、予備加熱時間を長くするなど、ボイドをはんだ接合部から抜く対策が必要となります。

(4)活性剤の量と保存性も相反する。    

ペーストはんだは、保存中にペーストはんだ中の活性剤とはんだ粉末が反応し金属塩を生成し、外観上パサパサになるか、外観上に変化はなくとも、活性剤が消費されることから、濡れ性が低下します。これが、ペーストはんだの保存中に発生する劣化メカニズムです。金属塩の生成は活性剤とはんだ粉末の化学反応ですから、この化学反応を抑えるために、冷蔵保管が必要となります。活性剤の量を多くすると、この反応が起こる可能性も大きくなることから、保存性も一般的には低下します。

(5)はんだの濡れ速度とフラックスの飛散は相反する。    

糸はんだでは、効率よく作業を行う必要性から速い濡れ速度が要求されます。濡れ速度を向上させるには、フラックスの粘性を下げ、素早くはんだ接合部にフラックスを供給する必要があります。何度も説明していますが、フラックス中の活性剤ははんだ付け温度で分解します。この分解ガスの力によって、フラックスを飛散させることになります。フラックスの粘性が大きいとこの分解ガスで持っていかれるフラックスの量は減少しますが、フラックスの粘性が低いと、より多くのフラックスが持っていかれ飛散量は多くなります。飛散量を少なくするため、粘性を上げると、はんだ接合部へのフラックスの供給速度が遅くなることから、必然的にはんだの濡れ速度は低下します。このように、一般的には、糸はんだにおける、はんだの濡れ速度とフラックスの飛散量は互いに相反します。従いまして、糸はんだを評価する場合は、必ず濡れ性とフラックスの飛散を同時に評価することが重要です。

このように、はんだ付け特性を評価することによって、フラックスを評価する場合、フラックスの挙動とフラックスの効果を良い面と悪い面の両方から捉えることによって、正しく評価しうると思います。決してはんだメーカの宣伝文句に惑わされないよう注意しましょう。
 
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