鉛レスはんだ 本当の真実
第一回 日経ビジネス掲載の鉛レスはんだ時限爆弾について
日経ビジネス2007年10月15日号において、実装を担当するエンジニアに取って非常に衝撃的な記事が掲載されました。2006年7月からRoHS指令が適用され、有毒とされる鉛を使用しない鉛レスはんだが実用化されています。記事としては、この鉛レスはんだの信頼性が従来の鉛入りはんだと比較し、著しく劣り、接合不良など数々の問題が現実に市場で発生しており、まさに時限爆弾を抱えているようなものであるというものです。本当に、鉛レスはんだの信頼性はそれほど低いものでしょうか? 記事そのものが大袈裟に書かれており、市場で発生している不良は単なる材料切り替え時に見られる一過性のものなのでしょうか? ここでは、この問題に関して材料科学的な立場から考えてみることにしましょう。
ずばり、結論から言いますと、鉛入りはんだと鉛レスはんだの材料の相違により、これらの材料を使用して形成したはんだ接合部の信頼性に材料科学的な相違が見られるということです。従って、材料を変更した場合、新しい材料の特性を充分把握し、その材料特性にあった信頼性設計を行うとこのような問題の発生を防止することができるということです。逆に、この相違を無視して、鉛入りはんだと同様の設計基準で鉛レスはんだを使用したはんだ接合部を設計すると、思わぬ事故が発生するということになります。この記事は、鉛レスはんだを使用する場合、従来とは異なった考え方ではんだ接合部の信頼性設計を行うべきであることを述べていると解釈できます。では、本当に鉛レスはんだと鉛入りはんだでそれほどの差が存在するのでしょうか。このことについて、もう少し詳細に考えてみたいと思います。

<SnAgCuはんだとSnPbはんだの金属組織の相違>
実は、SnAgCuで代表される鉛レスはんだ(以下SACはんだという)の金属組織と構造は従来のSnPbはんだのそれと大きな相違があります。図1に従来の鉛入りはんだであるSnPbはんだの金属組織を示します。

SnPbはんだの金属組織は、Snの結晶(図1の黒い部分)とPbの結晶(図1の白い部分)が別々に存在し、それらが混ざり合った共晶と呼ばれる構造をしています。一方、SACはんだの金属組織を図2に示します。


図1 SnPbはんだの金属組織(「エレクトロ実装学会誌」Vol15,No7,2002から引用)

SACはんだの金属組織は、図2に示すようにSnの結晶の回りをAgとSnの金属間化合物であるAg3SnとCuとSnの金属間化合物であるCu6Sn5とさらにSnの結晶という三つの結晶から構成される微細な共晶組織が囲んでいる構造となっています。このような結晶構造の違いがどのように信頼性に影響するのでしょうか。

図2 SACはんだの金属組織2)
< SACはんだとSnPbはんだの信頼性の相違>
一般に金属材料の変形は、ご存じのように弾性変形と塑性変形に分けられます。弾性変形では荷重が加わったときのみ金属材料は変形し、荷重を除去すると変形する前の状態に戻ります。印加する荷重が大きくなり、弾性変形領域を越えた荷重を加えると、荷重を取り払っても変形はもとに戻らず、塑性変形と呼ばれる永久変形が残ります。しかし、はんだは融点が低いため、室温で荷重を印加したとしても、弾性変形にはならず、塑性変形として残ります。このような材料に荷重を印加し、その状態を保持すると、材料は変形を続け最終的には破断します。このような材料の特性をクリープ変形と呼んでいます。そうです。はんだはこのクリープ変形によって破壊するのです。では、前述した金属組織の違いがこのクリープ特性にどのように影響するかについて考えてみたいと思います。この違いがはんだ接合部の信頼性の違いとなるのです。
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