『鉛レス半田 本当の真実』
知らない知識 材料編(その1)接合材料としての半田
前回のパート1では、鉛レス半田と鉛入り半田の相違を金属組織の面から説明しました。今回は接合材料としての半田について、材料工学的な側面からさらにその特徴について考えてみたいと思います。鉛レス半田を使いこなすには、これらの特徴を充分認識する必要があります。

<半田の破断モードと信頼性>
半田材料は一般的な金属材料に比べ、その融点が200℃前後と低融点であるという特徴を持っています。これは、半田という材料が、プリント基板で代表されるプラスチック材料とともに使用されるためです。一般に、エポキシ樹脂を代表とするプラスチック材料の耐熱温度は200℃前後(連続ではなく短時間定格)であることから、このような低融点の金属材料が使用されています。低融点金属である半田は、低融点からくる大きな金属的特徴を持っています。
図1で温度軸を絶対温度で目盛り、融点(493K)と融点(493K)の1/2(247K)の所に線を引くと3つの温度領域に分けられます。融点の1/2よりも低い温度領域では、半田は固体の金属として挙動し、融点よりも高い温度領域では、液体として挙動し、この2つの領域で囲まれた温度領域では、液体の性質を持った固体として挙動します。図1から判るように、半田はこの温度領域で使用されています。この温度領域で使用すると、半田は通常の金属のように弾性領域を持たず、半田に外部から荷重が加わると、永久に変形し続けるクリープという現象を示し、やがて破断に至ります。これが半田の破断モードです。従って、信頼性の高い半田とは、クリープ強度が強い、即ち外部荷重が加わっても、クリープ変形がしにくいか、しても破断までの変形能が大きなものであるといえます。
図1 半田の各温度における挙動
< 半田は組織によって機械的性質が変化する。>
半田のクリープ強度で代表される機械的性質は金属組織と密接な関係があります。鉛レス半田の代表的なSnAgCu半田(以下SAC半田という)は、前回述べたように、Snの結晶が種々の金属間化合物から構成される共晶組織で囲われており、この共晶組織が変形を阻止することから、変形しにくい構造になっています。しかし、この共晶組織が変形を阻止できなくなり変形が始まると、破断までの変形能が低いことから、容易に破断に至るという特徴をもっています。これに比較し、従来のSnPb半田は粒界すべりという変形構造をもっていることから、容易に変形するが破断までの変形能が高いという特徴を持っています。(この件に関しては前回を参照下さい。)

ここでは、SAC半田のように変形しにくい相を析出させ変形を阻止する構造(析出強化合金といいます)を持った金属は、金属組織によって、その機械的性質が容易に変化するということに注意する必要があります。即ち、SAC半田においては、変形しやすい相(Snの結晶)と変形を阻止する相(金属間化合物の共晶組織)がどのように分布しているかによって、共晶組織の変形阻止能力が変化するからです。従って、SAC半田の機械的性質を安定にするには、金属組織を制御する必要があるということになります。このことは、従来の鉛入り半田にはない大きな特徴であり、SAC半田を使いこなすには是非頭に入れておかなければならないことであるといえます。

では、金属組織を制御するには、どのようにすればよいのでしょうか。次にこのことについて考えてみましょう。
<金属組織は冷却特性で決定される。>
金属組織はどのようにして決定されるのでしょうか。それは、半田を冷却するときの冷却特性によって決定されます。SAC半田では、おおよそ2段階で凝固します。最初の冷却の段階でSnの結晶が析出(デンドライトと呼ばれる木の幹と枝のような形状になります。)し、次に金属間化合物で構成される共晶組織が析出します。従って、溶融しているSAC半田をゆっくり冷却してやると、このSnのデンドライトが充分に成長し、次に共晶組織がこのデンドライトを囲む形で析出します。このような金属組織では、Snの変形を共晶組織が阻止するという典型的な析出強化合金型の構造となり、前述した変形しにくいが、破断に至る変形能が小さいということになります。
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