②  新規ユーザーと、旧機種買い替えによる新興市場の需要
各種コンシューマー向け電子製品のうち、携帯電話が最も一般的に普及している製品であり、生活必需品と言っても過言ではない。外出の際に誰もが財布と鍵の他に携帯電話を持って出るように、年齢、性別、職業に関係なく、あらゆる人が毎日使用している。この現象は新興市場に於いても同様である。

これまで携帯電話メーカー各社は、スマートな設計と外観で安い機種を積極的に導入し、新興市場のニーズを喚起してきた。 これが新興市場の消費者に受け入れられ、加えてキャリアの設定した安価な通信費の一助があり、市場を広げる原動力となりました。 2006年までは、機能の少ない安価な携帯電話により、新興市場の成長が広がったと言える。



中国を例に取ると、2003年の携帯電話ユーザーは2億3千万人だったが、2005年には4億人に届く勢いであった。この成長要因としては、携帯電話の低価格化・低機能化が重要だった。中国以外の各国でも同様の傾向が見られる。しかし大量生産により低価格化が進み、また著しい技術発展による高機能化が進む現在の傾向から見ると、今後の新興市場の成長動力が低価格・低機能ではなく、マルチメディア携帯に移行することは必至だ。

2005年までに新興市場で販売された携帯電話を分析すると、その殆どはモノクロディスプレーで、単純な通信機能しか持たない機種だった。現在主流となっているカラーディスプレー且つデジカメ機能を有する機種の価格が急激に下がっている状況下では、4億人ほど存在する中国の旧機種使用者の買い替え需要に重点を置くべきである。TRIでは、2005年までに低機能携帯電話を購入した累計4億人のユーザーが、今後の中国市場成長の原動力になると見ている。また2005年以降に旧機種を購入したユーザーも、今後の潜在的購買者になる。中国市場だけではなく、世界の新興市場であるインド、南米でも同様の状況が見られる。インド市場では、2007年8月だけで800万の新規ユーザーが誕生し、総ユーザー数は2億人以上に達した。また中国市場では半年ごとに約4,000万のユーザーが新規加入しており、毎年1億人近くのユーザーが増加している。これらのデータから、携帯電話は新興市場において贅沢品から生活必需品になったといえる。現在携帯電話の平均交換率は1年半から2年に1度で、今後は新興市場経済の成長に伴う新規ユーザーの増加と旧機種買い替えの需要が、携帯電話産業成長の大きな柱となることが予想される。
 
図3 中国の携帯電話ユーザー数と成長率

③  新興市場では、低価格マルチメディア機種が販売の主流に
新興市場における携帯電話の販売価格と機種も大きく変わってきた。現在の市場状況から見ると、低価格・低機能機種が市場の主流であった時代は既に過去のものとなり、国際大手の戦略も変わってきている。2006年にMotorolaが打ち出した低価格・低機能機種『Motofone』が失敗した後、各大手メーカーには低価格・低機能機種の新興市場開拓戦略を見直す動きが出た。別の例としてインドを挙げるなら、全体的な経済発展と国民生活水準は中国に比べ遅れているというのが一般的な見方だが、携帯電話の販売においては、既に低価格・モノクロディスプレーの時代は過ぎ去っている。

下記の図はインドにおける主な販売製品である。市場の中心が、低機能でありながらもマルチメディアに対応している機種に移行していることが伺える。
図4 インド市場の主な携帯電話機種と販売価格(07年10月時点)

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